夜見

怪談や不思議な話を綴る静かなブログ。夜のおともにどうぞ。

🕯️【エレベーターの怪談】開くたびに一人ずつ増えていた|夜のすきま話

夜のマンションは、不思議なくらい静かだ。

昼間は人の出入りが多い建物でも、深夜になると物音ひとつ聞こえなくなる。

仕事を終えて帰宅した私は、いつものようにエントランスでエレベーターのボタンを押した。

時計は午前1時半。

眠気もあり、早く部屋へ帰りたいという気持ちしかなかった。

「3階。」

目的の階のボタンを押すと、古いエレベーターはゆっくりと動き始めた。

しばらくすると、2階で止まる。

ドアが開く。

しかし、そこには誰もいなかった。

「誰か押し間違えたのかな。」

そう思い、特に気にも留めなかった。

ドアが閉まり、再び動き出す。

その時だった。

なぜか、さっきまで広く感じていたエレベーターの中が少し狭く感じた。

まるで、自分以外にも誰かが乗っているような圧迫感。

気になって振り返ったが、もちろん誰もいない。

疲れているせいだと思い直し、前を向いた。

ようやく3階に着き、部屋へ戻る。

その夜は何事もなく眠りについた。

翌朝、マンションの管理人から声を掛けられた。

「昨日の夜、エレベーターに乗っていましたよね?」

どうやら防犯カメラの映像を確認していたらしい。

「ちょっと見てもらえますか。」

そう言われ、管理室のモニターをのぞき込んだ。

映像には、確かに私一人がエレベーターへ乗り込む姿が映っていた。

そして2階でドアが開いた瞬間。

誰も乗ってきていないはずなのに、画面には黒い服を着た女性が私の真後ろに立っていた。

顔はうつむき、長い髪で表情は見えない。

私は何も気づかないまま前を向いて立っている。

そのままエレベーターは3階へ向かう。

ドアが開いた瞬間。

今度は女性の後ろに、もう一人。

さらにその後ろにも、もう一人。

気づけば五人の人影が一直線に並び、全員が私の背中だけを見つめていた。

思わず息をのんだ。

私はそのまま部屋へ降りていく。

しかし映像の中では、一番後ろにいた人影だけがエレベーターを降りず、その場に残っていた。

管理人は静かにモニターを止めて言った。

「このエレベーター、昔から誰もいない階で止まることがあるんです。」

それ以来、私は階段を使うようになった。

それでも、夜遅くに帰宅すると、ときどきエレベーターが一人で動く音が聞こえる。

表示を見ると、誰も乗っていないはずなのに各階で止まりながら、ゆっくり上へ向かっている。

そして最後は決まって、私の住む3階で止まる。

私は今でも、その扉が開く瞬間だけは見ないようにしている。

もし中に誰かが立っていたら――

 

 

ではまた、“夜のすきま”でお会いしましょう。

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🕯️【防犯カメラの怪談】映っていたのは私だけではなかった|夜のすきま話

深夜のコンビニは、思っている以上に静かだ。

時計の針が午前2時を回る頃には、お客さんの姿もほとんどなくなる。

品出しや清掃を終え、レジ横の防犯カメラのモニターをぼんやり眺めるのが、私の日課だった。

店内には私しかいない。

「今日も何事もなく朝を迎えられそうだな。」

そうつぶやいた、その時だった。

モニターの一番奥、飲み物売り場を誰かがゆっくり横切った。

黒い服を着た人影だった。

慌てて顔を上げ、店内を見渡す。

誰もいない。

念のため売り場まで歩いて確認したが、人の気配はまったくなかった。

「疲れてるのかな……。」

そう思い、レジへ戻る。

ところが、モニターを見ると今度はお菓子売り場の角から、その人影がこちらをじっと見ていた。

思わず店内へ駆け出した。

しかし、やはり誰もいない。

その夜は気味が悪くなり、防犯カメラをできるだけ見ないようにして仕事を続けた。

夜が明ける頃、早番へ引き継ぐ時間が近づいていた。

最後に店内を一周して異常がないか確認し、レジへ戻る。

何気なく防犯カメラのモニターを見ると、そこにはレジに立つ私の姿が映っていた。

……その後ろに、もう一人立っていた。

肩に手を置こうとするように、ゆっくり腕を伸ばしている。

反射的に振り返った。

もちろん、誰もいない。

恐る恐るモニターへ目を戻す。

そこには、私一人しか映っていなかった。

翌日、その出来事を店長に話した。

店長は少し黙ったあと、ため息をついて静かに言った。

「実は前にもいたんだよ。同じことを言って辞めた人が。」

それ以上、店長は何も話さなかった。

私は今でも深夜勤務を続けている。

防犯カメラを見ることは、ほとんどない。

それでも、ときどきモニターの視界の端で何かが動いたような気がしてしまう。

だから私は、決して画面を見ない。

もしそこに誰かが映っていたとしても――

今度は、本当に目が合ってしまう気がするから。

 

 

 

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🕯️【クレーンゲームの怪談】最後の景品|夜のすきま話

ゲームセンターが好きだ。

特に閉店前の静かな時間が好きだった。

昼間は子どもたちや家族連れで賑わう店内も、閉店30分前になると人影はまばらになる。

その静けさの中で鳴り続ける電子音だけが、不思議と心地よかった。

その日も私は、一台のクレーンゲームの前に立っていた。

景品は古びたクマのぬいぐるみ。

特別欲しいわけではない。

ただ、「あと少しで取れそう」という位置だった。

500円ほど使った頃だろうか。

アームが景品を持ち上げた瞬間――。

コトン。

落ちた。

…と思ったが、景品口には何もない。

「引っかかったのかな?」

店員を呼ぼうとしたその時だった。

背後で小さな女の子の声がした。

「それ、取れないよ。」

振り向くと、小学校低学年くらいの女の子が立っていた。

白いワンピースを着て、景品をじっと見つめている。

「どうして?」

そう聞くと、女の子は首を傾げて笑った。

「だって、それはあの人のだから。」

意味が分からずもう一度景品を見る。

確かにそこにはクマのぬいぐるみがある。

ただ、さっきまで見えていなかった赤いリボンが首に結ばれていた。

「そんなリボン付いてたっけ…?」

違和感を覚えながらも、もう一度100円を入れた。

アームは景品をしっかり掴み、今度こそ景品口へ運ぶ。

ガタン。

景品は落ちた。

私はすぐに景品口へ手を伸ばした。

……何もない。

確かに落ちる音は聞こえた。

なのに、中は空っぽだった。

その瞬間。

背後から店員の声がした。

「閉店ですので、お帰りくださーい。」

振り返ると、さっきまでいた女の子の姿は消えていた。

帰り際、何気なく店員に聞いてみた。

「あのクレーンゲームの前にいた女の子、帰りました?」

店員は少し困ったような顔をした。

「今日はお子さんは来てませんよ。」

私は笑ってごまかした。

「いや、白い服を着た子です。」

店員の表情が変わる。

「……その話、聞いたことあります。」

十年以上前、この店で迷子になった女の子がいたという。

見つかったのは閉店後。

クレーンゲームの前で、一人泣いていたそうだ。

「欲しかったぬいぐるみが取れなかった」と繰り返していたらしい。

だが、その翌日。

女の子は事故で亡くなった。

それ以来、閉店前になると白い服の女の子を見たという話が何度もあった。

私は冗談だと思い、苦笑いした。

その時だった。

店員が一枚の紙を見せてきた。

「防犯カメラの確認をしていたんですが……。」

画面には、クレーンゲームで遊ぶ私の姿が映っていた。

そのすぐ横には、小さな女の子。

そして画面の端には、もう一人。

景品口から、こちらを見上げる誰かの顔。

目だけが、笑っていた。

店員は静かにモニターの電源を切った。

「だから閉店前は、あの台の景品を補充しないんです。」

帰宅後、私は財布の中から100円玉を取り出した。

今日使ったはずの硬貨だった。

よく見ると、表も裏も削れていて、製造年だけがはっきり読めた。

『昭和61年』

その年は、あの女の子が生まれる前だった。

 

 

 

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🕯️【螺旋階段の怪談】下から聞こえる足音|夜のすきま話

家の近くに温泉施設がある。

そこへ行くたび、私は少しだけ苦手な場所を通らなければならない。

建物の外にある螺旋階段だ。

鉄製の階段で、夜になると足音がよく響く。

下を覗けば一階まで見えるはずなのに、曲がった構造のせいで意外と先が見えない。

それが何となく不気味だった。

ある日のこと。

温泉を出たのは夜の十時過ぎだった。

人も少なく、館内は静かだった。

私はいつものように螺旋階段を下り始めた。

カン。

カン。

カン。

自分の足音が夜に響く。

一周、二周と下りた頃。

別の足音が聞こえた。

カン。

カン。

カン。

下の方から誰かが上ってきているらしい。

珍しくない。

気にも留めずに歩き続けた。

だが、しばらくして違和感を覚えた。

足音が近付いてこない。

螺旋階段は一本道だ。

誰かが上ってきているなら、そのうちすれ違うはずだった。

それなのに。

カン。

カン。

カン。

足音は聞こえる。

けれど姿が見えない。

私は足を止めた。

すると相手の足音も止まった。

気のせいだろうか。

そう思い、再び歩き出す。

カン。

カン。

カン。

するとまた、下から足音が聞こえ始めた。

同じ速さで。

同じ間隔で。

まるで私に合わせるように。

私は手すりから下を覗いた。

誰もいない。

一階の出入口まで見渡したが、人影はなかった。

聞き間違いだったのかもしれない。

そう自分に言い聞かせて階段を下りきった。

その時だった。

背後で、

カン。

と、一段だけ足音がした。

振り返った。

誰もいない。

もちろん階段にも。

ただ、私が今まで下りてきた螺旋階段だけがあった。

その後も何度かその温泉へ行った。

けれど夜に螺旋階段は使わなくなった。

エレベーターを使うようにしたのだ。

先日、久しぶりに温泉へ行った時のこと。

脱衣所で、知らない男性二人が話していた。

「やっぱり聞こえました?」

「聞こえましたよ。下から足音がするのに、誰とも会わないんですよね。」

思わず顔を上げた。

すると一人が続けた。

「しかもあれ、下からじゃないんです。」

「え?」

「よく聞くと、自分のすぐ後ろから聞こえるんですよ。」

 

 

 

 

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🕯️【視線の怪談】気付いた時には見られていた|夜のすきま話

大学に入学してから半年ほど経った頃の話だ。

 

大学近くのアパートで一人暮らしを始め、ようやく生活にも慣れてきた頃だった。

 

私の部屋は二階の角部屋で、窓の向かいには古いマンションが建っていた。

 

築年数はかなり経っているようだったが、夜になると所々の部屋に明かりが灯る、ごく普通のマンションに見えた。

 

最初に違和感を覚えたのは、ある夜のことだった。

 

コンビニ帰りに何気なく顔を上げた時、マンションの最上階の窓に人影が見えたのだ。

 

カーテンの隙間から、こちらを見ているように見えた。

 

だが距離もある。

 

気のせいだろうと思い、そのまま部屋へ戻った。

 

翌日。

 

同じ時間に帰宅した時だった。

 

また同じ窓に人影がいた。

 

暗くて顔は見えない。

 

ただ、窓際に立っていることだけは分かった。

 

少し気になったが、住人なのだろうと思った。

 

だが、その日から毎晩見かけるようになった。

 

雨の日も。

 

風の強い日も。

 

決まって同じ窓に立っている。

 

スマホを見ている様子もない。

 

テレビを見ている様子もない。

 

ただ窓際に立ち、こちらを見ているように見えた。

 

気味が悪くなった私は、友人にその話をした。

 

すると友人は笑いながら言った。

 

「気になるなら写真撮れば?」

 

その日の夜、私は帰宅する前にスマホで窓を撮影してみた。

 

だが写真には何も写っていなかった。

 

窓も。

 

カーテンも。

 

普通だった。

 

それなのに、肉眼では人影が見えている。

 

妙な気分になった。

 

それからしばらくして、あることに気付いた。

 

人影の位置が変わっているのだ。

 

最初は最上階だった。

 

だが数日後には一つ下の階。

 

さらに数日後にはまた一つ下。

 

見間違いかと思った。

 

だが確かに少しずつ下へ移動している。

 

まるでこちらへ近付いてくるように。

 

気になった私は、管理会社に聞いてみることにした。

 

向かいのマンションについて何か知っているかと思ったのだ。

 

すると担当者は少し驚いたような声を出した。

 

「向かいのマンションですか?」

 

そして不思議そうに続けた。

 

「あそこ、取り壊し予定で今は全室空室ですよ」

 

私は思わず聞き返した。

 

だが担当者の答えは変わらなかった。

 

最後の住人が出ていったのは一年以上前らしい。

 

その夜はなかなか眠れなかった。

 

カーテンを閉めていても、窓の向こうから見られている気がした。

 

それから数日後。

 

帰宅した私は思わず足を止めた。

 

人影がいる。

 

だが場所がおかしい。

 

もう最上階ではない。

 

私の部屋と同じ高さの窓に立っているのだ。

 

道路を挟んで向かい側。

 

暗い部屋の窓際に立ち、こちらを見ている。

 

その瞬間、背筋が寒くなった。

 

なぜなら、その部屋も空室のはずだからだ。

 

私は急いで部屋へ入り、カーテンを閉めた。

 

それ以来、窓を見るのが怖くなった。

 

そして数日後。

 

私は実家へ帰ることを決めた。

 

荷物をまとめるため、友人に付き添ってもらい部屋へ戻った時のことだった。

 

作業も終わり、最後に部屋を見回していると、友人がふと窓の方を見た。

 

「なあ」

 

その声に振り返る。

 

友人の顔は青ざめていた。

 

「お前、あれって何だ?」

 

震える指が窓を指している。

 

私は恐る恐る視線を向けた。

 

向かいのマンションの窓には誰もいなかった。

 

だが窓ガラスには部屋の中が映り込んでいた。

 

私と友人。

 

そして、その後ろ。

 

部屋の隅に、黒い人影が立っていた。

 

私は反射的に振り返った。

 

だがそこには誰もいない。

 

再び窓を見る。

 

もう人影は消えていた。

 

私はその日のうちにアパートを引き払った。

 

それから二年以上が経つ。

 

今では別の街で暮らしている。

 

だが夜に窓の外を見る時、時々思い出すことがある。

 

あの人影は、本当に向かいのマンションにいたのだろうか。

 

 

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🕯️【心霊写真の怪談】最初は遠くにいたはずだった|夜のすきま話

その写真を初めて見た時、女の子は遠くにいた。

 

休日の午後。

 

私は公園で遊ぶ息子の写真を撮っていた。

 

滑り台を何度も滑り、楽しそうに走り回る息子。

 

その姿を残しておきたくて、私は何枚もシャッターを切った。

 

帰宅したその日の夜。

 

子どもが寝たあと、私はスマホのアルバムを開いた。

 

どれもいつも通りの写真だった。

 

楽しそうに笑う息子。

 

遊具で遊ぶ姿。

 

転びそうになりながら走る後ろ姿。

 

だが、その中の一枚だけが違っていた。

 

息子の後ろ。

 

公園の奥にある木の近くで、一人の女の子がこちらを見ていたのだ。

 

他の子どもたちは遊んでいるのに、その子だけは動いていない。

 

まるで最初からカメラを見ていたかのように。

 

少し気味が悪かったが、公園なら知らない子が写り込むこともある。

 

その時はそう思っていた。

 

だが翌日。

 

何気なく同じ写真を開いた私は、あることに気づく。

 

女の子が近づいていた。

 

昨日はもっと遠くにいたはずだった。

 

木の近くに立っていたはずの女の子が、遊具のそばに移動している。

 

思わず写真を拡大した。

 

見間違いではない。

 

確かに近づいている。

 

私は妻にも見せた。

 

だが妻は不思議そうな顔をした。

 

「最初からそこにいたんじゃない?」

 

そう言われると自信がなくなる。

 

記憶違いなのかもしれない。

 

そう思うことにした。

 

しかし、その翌日。

 

女の子はさらに近づいていた。

 

今度は息子のすぐ後ろに立っている。

 

表情もはっきり見えるようになっていた。

 

長い髪。

 

白い服。

 

そして無表情。

 

息子は楽しそうに笑っている。

 

だがその後ろで、女の子だけが真っ直ぐこちらを見ていた。

 

その視線に妙な圧迫感があった。

 

私は何度もアルバムを閉じては開いた。

 

それでも女の子の位置は変わらない。

 

いや。

 

変わっているのは私の方なのか。

 

そう思い始めた。

 

それから毎日、その写真を確認するようになった。

 

そして毎日後悔した。

 

見るたびに女の子は近づいてくるからだ。

 

数日後には、息子の真横に立っていた。

 

さらにその翌日には、こちらへ身体を向けていた。

 

その顔には、うっすらと笑みが浮かんでいた。

 

初めて見た時は無表情だったはずなのに。

 

気味が悪くなった私は、その写真を削除した。

 

ゴミ箱からも完全に消した。

 

これで終わった。

 

そう思った。

 

だが終わらなかった。

 

数日後。

 

別の日に撮った家族写真を見ていた時だった。

 

アルバムの最後に見覚えのない写真が増えていた。

 

撮影日時は表示されていない。

 

恐る恐る開く。

 

そこには自宅のリビングが写っていた。

 

妻がソファに座っている。

 

息子がおもちゃで遊んでいる。

 

だが、その後ろにいた。

 

あの女の子だった。

 

しかも今度は近い。

 

近すぎる。

 

妻の肩に手を置けるほどの距離に立っている。

 

私は慌ててスマホを落とした。

 

心臓が激しく鳴る。

 

震える手で再び画面を開いた。

 

写真は消えていた。

 

代わりに、別の一枚が追加されていた。

 

そこに写っていたのは私だった。

 

リビングの中央に立ち、カメラへ向かって笑っている。

 

だが、その顔は私ではない。

 

口元だけが不自然に大きく開き、目は笑っていなかった。

 

そして私の隣には、あの女の子が立っていた。

 

その時だった。

 

スマホの画面が一瞬暗くなった。

 

そして通知が表示された。

 

送り主の名前はない。

 

ただ一言だけ書かれていた。

 

「やっと近くまで来られたね」

 

私は悲鳴を上げてスマホを投げ捨てた。

 

翌朝。

 

恐る恐る確認すると、通知も写真も消えていた。

 

だが今でも時々、アルバムを開くのが怖い。

 

もしまたあの写真が現れたら。

 

もしまた女の子が写っていたら。

 

今度はどこに立っているのだろう。

 

なぜなら最後に見た時――

 

あの子はもう、遠くにはいなかったのだから。

 

 

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🕯️【夜勤怪談】誰も乗っていないエレベーターが13階で止まる理由|夜のすきま話

深夜2時を過ぎる頃。

 

ホテルの廊下は静まり返り、
ロビーに流れていたBGMも、どこか遠く感じる時間だった。

 

夜勤を始めて三ヶ月。

 

最初は怖かった館内巡回にも慣れ、
私は毎晩決まった時間に、各階を確認して回っていた。

 

——ただ、一つだけ。

 

どうしても慣れないことがあった。

 

誰も呼んでいないはずのエレベーターが、
毎晩決まって“13階”で止まるのだ。

 

このホテルに13階はない。

 

表記上は、12階の次は14階になっている。

 

海外の客を気にして、
縁起の悪い数字を避けているらしい。

 

だから当然、
宿泊客が13階に行くことはできない。

 

……表向きは。

 

最初にそれを見たのは、
夜勤二日目だった。

 

フロント横の監視モニターに、
エレベーター内部の映像が映る。

 

無人の箱。

 

誰も乗っていない。

 

なのに表示だけが、

 

『13』

 

と変わった。

 

「……え?」

 

思わず声が漏れた。

 

エレベーターは静かに止まり、
数秒後、また何事もなかったように下降していった。

 

故障かと思った。

 

だが翌日も、その次の日も同じだった。

 

決まって午前2時13分。

 

誰もいないエレベーターが、
存在しない13階へ向かう。

 

先輩に聞いてみたことがある。

 

すると先輩は少し黙ったあと、
妙な顔で笑った。

 

「気にしなくていいよ」

 

そう言ったあと、小さな声で続けた。

 

「開かなければ大丈夫だから」

 

意味が分からなかった。

 

何を“開ける”のか。

 

それ以上は教えてくれなかった。

 

その日から、
私はエレベーターのモニターを見るのが怖くなった。

 

だが、ある夜。

 

いつものように表示が『13』になった瞬間、
モニターに違和感が映った。

 

……人影。

 

奥の鏡に、誰かが立っていた。

 

黒いスーツ姿の男。

 

俯いたまま、微動だにしない。

 

私は凍りついた。

 

だが次の瞬間。

 

男がゆっくり顔を上げた。

 

モニター越しなのに、
はっきりと目が合った気がした。

 

その瞬間だった。

 

——ピーン。

 

フロント横のエレベーター到着音が鳴った。

 

ありえない。

 

ロビー階に戻ってくるには早すぎる。

 

恐る恐る振り向く。

 

閉まったままの扉。

 

表示は『13』。

 

ありえない表示のまま、
エレベーターだけがそこに止まっていた。

 

すると突然、

 

コン……コン……

 

内側から、扉を叩く音がした。

 

小さく。

 

けれど確実に。

 

コン……コン……

 

私は動けなかった。

 

逃げなければと思うのに、
視線が扉から外せない。

 

その時。

 

背後から先輩の声がした。

 

「見るな!!」

 

振り返る間もなく、
先輩は非常停止ボタンを叩いた。

 

その瞬間、音が止んだ。

 

静寂。

 

しばらくして、
表示がゆっくり『1』へ戻った。

 

先輩は青ざめた顔で言った。

 

「13階で止まった時、中を見たのか?」

 

私は黙って頷いた。

 

すると先輩は深くため息をつき、

 

「……だから開かなければ大丈夫なんだよ」

 

と呟いた。

 

後から聞いた話では、
昔このホテルの建設中、
13階部分で転落事故があったらしい。

 

作業員が一人、行方不明になったという。

 

遺体は最後まで見つからなかった。

 

それ以来——

 

午前2時13分になると、
誰もいないエレベーターが、
存在しない13階へ向かうようになったそうだ。

 

ちなみに今でも、
このホテルのエレベーターには“13階”のボタンは存在しない。

 

……客室案内にも、載っていない。

 

それなのに。

 

深夜、たまにフロントへこんな電話が来るらしい。

 

「すみません——」

 

『13階から降りられないんですが』

 

 

 

ではまた、“夜のすきま”でお会いしましょう。

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